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串を可愛がる

―丸山 愛莉紗  主任

社内での仕事柄、繁盛店や話題のお店を食べ歩いたりする。『焼きとん』のお店は特に。同時に自店舗も。

記録としてカメラロールに保存される大量の写真。レポートやメモを付け加え、いまやクラウドというシステムを使えば制限はほぼない。共有すらできる。
記録するでデバイスが進化する一方、人間の記憶するという能力は衰えていく。保存する記憶も選べなければ、上書きされ思いだすのも難しく、都合のいい改ざんで伝える事もある。

そのために記録があるのだが、結局人間の記憶に刻まれているのは衝撃的だったことだ。
飲食に関していったら『これは美味い!』と思った時に刻まれた記憶は多い。

丸山さん(マルちゃん※当時アルバイト)の作った焼きとんを食べたときがそれだ。
本人にも社内のみんなや友人に話したのを鮮明に覚えている。

自分との戦いで面白かった

小さい頃からお姉ちゃんともんじゃ焼き屋をやりたかったと話すマルちゃんに調理を始めたきっかけを聞いてみるとこう答える。

『もともと飲食店でアルバイトしたりしてたんですが、どこ行ってもホールやらされて。人と接するのが得意じゃなかったのでキッチンやろうと思って(調理を募集してたGCCPに)応募して、始めてみたら凄く面白くて。私絶対こっちの方が向いてるじゃんってなって。調理ってめちゃくちゃ自分との闘いで面白かった』
女性だからと言ったか思ったかどうかは定かではないが、以前までのアルバイト先ではホールスタッフを担当させられる事が多くかったという。

もともと人見知りで目立つのが好きな性格ではなかったというマルちゃん。
そんな自分の短所から距離を置いた結果、自分の長所を見つけることに。

串を可愛がる

焼き場担当になり、焼きとんをもっと知りたいと思い社員が受ける『串研修』をアルバイト時代に受けたり、カットや打ち方、焼き加減、塩加減などを試行錯誤し研究する。もちろん味や焼き加減にブレが出る事もあるから定期的に自分で焼いて食べる。

打たれた焼きとんを『かわいい串』『串を可愛がる』とマルちゃんは表現する。
そんな可愛がっている串だから、適当に打たれた串を見ると『もっと愛情を注げよ』と思い注意することもあるという。

厳しく注意するときもあるが、教えた従業員がいい焼きとんを仕上げたときは周りに『最近の彼の串はすごくよくなってる!』と自分のことのように話す。
なるほど、そこまで愛でられた焼きとんには焼き台の火以外の熱量が芯まで届いているはずだ。記憶に残るのは間違いない。

アルバイトから社員へ

『社員になるからには自分が尊敬してた人達に近づきたいと思ったけど、高すぎる理想の自分になれるかわからなくて、最初はプレッシャーに押しつぶされて泣いたときもありました』
アルバイトから社員という流れは飲食業界では珍しいことではないが、長く続けられるかは別の話になる。

技術的要素、背負う責任、人員や数字の管理など見えていなかった仕事内容、腑に落ちない事などが出てくることで理想と現実の間にギャップが生まれる。

楽しむことを忘れ、歯がゆさや苛立ちを抱える人。
生じたギャップを埋められず辞めてしまう人。

そんなプレッシャーの中でも仕事を続けるマルちゃんは『みんなから料理に対する思いを聞いてたので、それを他の人にも伝えなきゃと思った』と話す。
思いの継承。我々が掲げる大衆酒場という文化の継承に一致する部分も多い。
伝言ゲームのズレと一緒で、伝え方を間違えれば未来の着地点は全く違う位置になる。だからこそ先人への理解とリスペクトがないといけない。

アルバイト時代に尊敬する調理の人たちから教えてもらったことや料理との向き合い方は忘れていない。社員になった今は他の従業員に思いを伝える側に回った。

STAFF
TEXT: Masami Wakasa
PHOTO: Yuta Kobayashi
September, 2026